1. 問題提起:退職代行の報道は、不動産実務の「対岸の火事」ではない
近年、退職代行サービスを巡る報道が世間を賑わせました。
特に、ある大手サービス運営会社が弁護士法違反(非弁行為)の疑いで家宅捜索を受けたというニュースは、多くの業界関係者に衝撃を与えたことでしょう。
一見、退職代行と不動産実務は無関係に思えます。しかし、この事件が浮き彫りにしたのは、「どこまでが合法的な代行・事務連絡で、どこからが非弁行為にあたる交渉・法律事務なのか」という、コンプライアンス上の極めて重要な境界線です。
この構図は、賃貸経営におけるトラブル対応、特に家賃滞納や立退き交渉といった場面で、オーナー様や管理会社様が直面する法的リスクと酷似しています。
「表向きは連絡の代行でも交渉に踏み込むと非弁行為になり得る」。この原則は、退職代行のみならず、不動産実務においても厳しく適用されることを、私たちは深く認識する必要があります。
2. 不動産領域で起こり得る非弁行為の典型ケース
弁護士法第72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件やその他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁、和解その他の法律事務を取り扱うことを業とすることを禁止しています。
これは、法律の専門家ではない者が安易に法律事務を行うことで、依頼者に不利益が生じることを防ぐための規定です。不動産実務において、この非弁行為に該当する可能性がある具体的な場面を解説します。
賃貸トラブルにおける非弁行為リスク
| 実務上の行為 | 非弁行為に該当する可能性 | 理由と法的線引き |
|---|---|---|
| 賃料滞納の督促 | 事務連絡に留まる場合は問題なし | 単なる事実の通知や支払いの催告は事務連絡です。しかし、相手方が支払いに難色を示し、紛争性が生じた後の交渉は法律事務にあたります。 |
| 滞納分割合意の交渉 | 高いリスク | 滞納家賃の減額や分割支払いに関する合意形成のための交渉は、法律上の権利義務を調整する行為であり、弁護士の独占業務に踏み込む可能性があります。 |
| 立退き交渉 | 極めて高いリスク | 契約更新拒絶や建物明渡しを求める際の交渉は、紛争性が顕在化している「法律事件」にあたり、弁護士法第72条に抵触する可能性が高いです。 |
| 立退料調整 | 極めて高いリスク | 立退料の金額や支払い条件に関する交渉やあっせんは、法律上の権利調整そのものであり、弁護士以外が行うことは非弁行為と見なされます。 |
| 契約解除通知の作成・発送 | リスクあり | 単なる事務的な通知ではなく、「滞納を理由とする契約解除」など、法的効果を伴う意思表示を代理人として行う場合、非弁行為に該当する可能性があります。 |
| 内容証明の作成・発送 | リスクあり | 内容証明郵便は、その性質上、法的権利の主張を伴うことが多く、「書面作成にも法的判断が介在することがある」ため、弁護士以外が報酬を得て行う場合は注意が必要です。 |
管理会社様の役割は、あくまで**「管理委託契約に基づいた事務的な連絡・報告」に留まります。
入居者との間で法律上の権利義務に関する交渉や調整**が必要になった時点で、その線引きを超え、非弁行為のリスクが生じます。
3. なぜ管理会社や民間対応が危険になり得るのか
不動産管理会社やオーナー様が、入居者とのトラブル解決に尽力されるのは、紛争の早期解決を願う「善意」に基づいていることがほとんどです。
しかし、法律の世界では、その動機が善意であったとしても、結果は変わりません。
「善意でも結果は変わらない」。弁護士法第72条の適用においては、行為者の意図よりも、その行為が実質的に法律事務の取り扱いであるかどうかが問われます。
特に、賃貸トラブルは感情的な対立を伴いやすく、初期の対応が不適切であったために、かえって紛争が拡大し、長期化するケースが少なくありません。
また、前述の通り、書面作成一つをとっても、その文言が将来の裁判で不利な証拠となったり、意図しない法的効果を生じさせたりするリスクがあります。
単なるテンプレートの利用ではなく、個別具体的な事案に応じた法的判断が不可欠なのです。
非弁行為は、弁護士法第77条により刑事罰(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)の対象となる重大な法令違反です。
オーナー様や管理会社様が、知らぬ間にこのリスクを負うことは、健全な不動産経営の継続を脅かしかねません。
4. 法的線引きと専門家介入の重要性
不動産実務における非弁行為のリスクを回避し、トラブルを円滑に解決するための鍵は、「専門家を早期に入れることで紛争拡大を防げる」という認識を持つことです。
賃料滞納や立退きといった問題が発生した場合、管理会社様は事務的な催告や状況報告に徹し、相手方が異議を唱えたり、交渉が必要になったりした段階で、速やかに弁護士にバトンタッチすることが最善の策です。
弁護士は、法律の専門家として、オーナー様の権利を最大限に守りつつ、冷静かつ法的な根拠に基づいた交渉を行うことができます。
これにより、感情的な対立を避け、紛争の長期化を防ぎ、結果として時間的・経済的なコストを最小限に抑えることが可能になります。
読者の皆様におかれましては、曖昧な法的断定を避け、一般的な説明として、ご自身の業務が弁護士法第72条に抵触しないよう、常に法的境界線を意識し、個別具体的な事案については必ず弁護士にご相談いただくよう、改めて注意喚起させていただきます。
5. 参考・参照元
本記事は、退職代行サービスに関する報道を踏まえ、不動産実務における非弁行為のリスクについて解説したものです。
•弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)
•e-Gov法令検索
注:特に第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)をご確認ください。
参考情報
•【不動産投資の落とし穴】 「モームリ事件」に学ぶ、不動産投資家が陥りやすい法律の落とし穴 ~非弁行為・代理交渉・契約トラブルの境界線とは?~(健美家)
6. まとめ・読者への提案
不動産経営におけるトラブルは避けられないものですが、その対応を誤ると、思わぬ法的リスクに直面する可能性があります。
非弁行為のリスクを正しく理解し、適切なタイミングで専門家と連携することが、オーナー様の大切な資産を守るための最良のリスクマネジメントです。
お困りごとや不安な点がありましたら、 株式会社アール・エフ・マネジメントにご相談ください。
無料相談窓口もご用意しております。



